札幌地方裁判所 昭和27年(モ)430号 判決
債権者 田所富男
債務者 川埜健次
一、主 文
当裁判所が債権者債務者間の昭和二十七年(ヨ)第一一〇号漁船仮差押命令申請事件について昭和二十七年七月十一日なした仮差押決定はこれを認可する。
訴訟費用は債務者の負担とする。
二、事 実
債権者代理人は、主文第一項と同旨の判決を求め、その理由として、「債務者は、債権者に対し、昭和二十七年三月二十五日金額二百万円、満期同年六月二十二日、支払地振出地ともに北海道岩内町、支払場所株式会社北海道拓殖銀行岩内支店とする約束手形一通を振出してこれを交付し、債権者は、現にその所持人である。そこで、債権者は、右手形の満期に支払場所に至り、支払を受けるため呈示したのにこれが支払を拒絶せられたにより、債権者は、右手形金請求の訴訟(当裁判所昭和二十七年(ワ)第二七五号)を提起した、ところで、債権者は、目下財産隠匿の挙に出ようとしている現状にあり、これをこのまま放置するにおいては、後日債権者が勝訴の判決を得ても、その執行不能となるおそれがあるので、強制執行保全のため、債務者所有の木造漁船建生丸(総トン数十九トン二六)および第八建生丸(総トン数十九トン六五)の二隻(以下本件漁船という)について仮差押命令を申立てたところ、これを認可する旨の主文第一項掲記の仮差押決定(以下本件仮差押決定という)を得た、この決定はもとより正当であるから、これが認可の判決を求めるものである、」とのべ、債務者代理人の答弁に対しては「本件仮差押決定の目的物たる漁船は、民事訴訟法第七百四十八条第七百十七条第一項に該当するから、一般の有体動産とは区別して取扱われるべきものである。而して仮差押の目的物が有体動産以外の場合には初めから執行の目的物を命令中に特定表示することが成例となつているのであるから、本件仮差押決定をなすに当り、本件漁船を差押物件に特定しても何等違法はない。仮に、仮差押の目的物はこれを特定すべきではないとしても、それは、目的物の記載が単に法律上無意味であるというにとどまり、何等その効力を生じないのであるから、本件仮差押決定を違法として取消さなければならないほどの瑕疵あるものとはいい得ない」とのべた。
債務者代理人は、「本件仮差押決定を取消す。債権者の本件仮差押命令の申請はこれを却下する、訴訟費用は債権者の負担とする」との判決を求め、答弁として「仮差押手続においては、仮差押債務名義の存否を確定する命令裁判所とその仮差押債務名義に基き仮差押の執行をする執行裁判所とは別異なものであつて、凡そ、命令裁判所が有体動産の仮差押をなすにあたつては、債務者所有の全有体動産についてなすべきであるにかかわらず、命令裁判所にとどまる札幌地方裁判所は、本件仮差押決定において仮差押の目的物として本件漁船を特定表示したものであつて、これは執行裁判所の権限を冒した違法があるから、本件仮差押決定は、取消さるべきものである」とのべた。
三、理 由
本件仮差押決定のなされるに至つた債権者主張の事実については、債務者の明かに争わないところである。
債務者は、本件仮差押決定は、債務者所有の全有体動産についてなさるべきであつたにかかわらず、仮差押の目的物を本件漁船に特定したのは、命令裁判所とは別異に存在する執行裁判所の権限を冒した違法があると主張する。なるほど、本件漁船は、未登記の船舶で、その有体動産であることは弁論の全趣旨から明かであり、仮差押命令では、有体動産に対する場合は、不動産等に対する場合と異なり、執行の目的物を特定しないのが通例である。しかしながら、凡そ、債務者は、総財産を以て責に任ずるのが原則であり、従つて仮差押も亦債務者の総財産を対象としていることから、命令裁判所は、本来、被保全権利の範囲内で、債務者の総財産に対して仮差押を許すべき旨を宣言すれば足り、これを動産、不動産等に予め限定し、更に有体動産に対する場合以外は総て執行の目的物を表示し、有体動産にはその必要がないと区別することは理論上からは何等要求されないところである。ただ仮差押は、その目的物の異同によつて執行の方法を異にするところから実務上有体動産仮差押、不動産仮差押、債権仮差押などの項を別つのは、単に実際上の便宜にとどまる。されば、命令裁判所において、仮差押の目的物の具体的表示をなすことは、責任財産を表示する場合を除き、法律上無意味であつて、別段の効力をもつものではないと解する。本件漁船も、その執行については有体動産に対すると異なる取扱を受けることから、通例に従い、本件仮差押決定にあたつてその特定がなされたというだけであつて、このことは、前叙の如く、何等法的効果をもつものではなく、従つて執行裁判所の権限を冒すものとはいい難いから、これを前提とする債務者の主張は採用するに由ない。
よつて、さきになした本件仮差押決定は、認可するのが相当であると認め、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 中村義正)